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Leaving Ushuaia ウシュアイアを出航 Drake Passage の荒波を越え 1,000km 先の南極をめざす |
2000/12/29 Fri. クルーズ 1日目
ウシュアイアのホテルで朝食を取っていたら,一人の人が話し掛けてきた.藤田さんという方で,アメリカでポスドク(博士号取得後に研究のために大学にいること) をやっているというすごいかただ. 一人できているという.一人旅の人がいるとわかって,少しほっとする.なんと言っても,船旅は長い間同じ人たちと生活をともにするので,中にどんな人が乗っているかは結構重要だ.特に僕のように一人できているとなおさらだ.
今日出航までにやらないといけないことは,
長靴を買うこと.
南極大陸に上陸するには,ボートで近づき,おりるときにどうしても足が水につかってしまうらしい.
このウシュアイアの街は,基本的に1本の通り沿いに店が集まっている.端から順番に見ていくが,見当たらない. しばらく回っていると,長靴を試着している人を発見.
こんな地球のはてまできて長靴なんか買っている旅行者といえば,目的はひとつしかない.
南極を目指しているのだ.早速話し掛け,昼食をごいっしょした.残念ながら船は違った.しかし,この街はいろいろな人が南極という最後の大陸を目指していて面白い.
16:30 に船に行き,自分のキャビンにいってみる.
Inside Cabin, Kapitan Dranitsyn, Yuichiro Nakamura, 2000 |
キャビンは思ったより広く,8畳ぐらいのスペースに,ユニットバスとベッド,ソファ,机,棚がある.中は清潔だ.納得いかない点がひとつ.
船の窓が丸くない!
やっぱ船の窓といったらあのアニメとかに良く出てくるような まぁるい 窓を期待していたのだけど,残念.あと部屋のドアの鍵はかけるな,といわれた.鍵を差し込んでいるときに船がぐわーっとゆれると,鍵を折ってしまうことがあるとのこと.鍵穴には折れた鍵が残るので,どうしようもなくなってしまうらしい.まぁ,楽だからいいんだけど.
僕の乗船した Kapitan Dranitsyn という船は,ロシア船籍の長さ 121m もある巨大な砕氷船で,その上にマンションのような客室があとから付け足したようにそびえている.8階建てになっていて,そのさらに上に操舵やレーダーなどを制御するブリッジがついている.バー,ダイニング,売店,レクチャーホール,ジム,プール,サウナ(ロシアの船だしね),がある.
18:15 になると,船が出港した.この国にあって,信じられないほどすばらしく予定通りだ.ウシュアイアの岸壁を船が離れていくとなんとなく寂しく,なんとなくわくわくしてきた.夜になると,Captains Welcome Cocktails がふるまわれた.乗客の中で日本人は92人中6人で,アジア系は日本人だけだった.このクルーズに退職したおじいさん,おばあさんがたが多いのは,かなりの経済力が要求されるのでそうやたらとこられないのだろう.
Bath Room, Kapitan Dranitsyn, Yuichiro Nakamura, 2000 |
2000/12/30 Sat. クルーズ2日目
船の注意点をもうひとつ.ここのトイレは,ふたを閉めてレバーを引くと「シュゴーッ!」と言う音とともに中身が吸い込まれるのだが,これが良くつまるのだ.このことは昨日ブリーフィングで聞いていたのだが,朝だったので油断していた.
トイレがつまっている.流れない.
あせって何度もレバーを引っ張るが,何もおきない.まいった.船は右に左にゆれている.何も無かったことにして朝食に向かう.Drake Passage への突入は強風のためにあきらめたとのこと.ここは世界でも有数の荒れる海だ.ゆれの本番はこれからだ.朝食後,本格的なゆれが始まった.心配になって部屋に戻ってみると,机のものはすべて床に散らばっていた.どこにおいても結局床に落ちてしまうので,荷物は全て床に置くことにする.え?トイレはどうなったかって?
Drake Passage, Yuichiro Nakamura, 2000 |
ブリッジに上がると,レーダーに映るのは波ばかりで,何も無いところを南に進んでいた.水平線が右に左に傾く.立っているのもつらく,何かにつかまっていないとひっくり返ってしまう.最大で 38度横に傾いている.38度といったらスキーでも上級者コースだ.キャプテンは「38度ならまだ大丈夫」といっていた. 本当?
船の舳先が波につっこむたび,船室は上下に激しく揺れ,巨大な水しぶきがデッキをたたく鈍い音が聞こえる.それでも昼食はスープ,カレー,デザートときちんとコースででてきた.机につかまりながら,
優雅に,必死にコース料理を食べる.
ブリッジで船首が波に突っ込む写真を撮っていたら,新たな乗客が入ってきた.その瞬間に,船が大きくゆれ,頭が見えるはずのところには足が見えた.完全に体が宙に舞った.
その不幸なおじさんは,クルーズの間中頭にばんそうこうを貼るはめになってしまった.ブリッジは立ち入り禁止とあいなった.
Stairs, Kapitan Dranitsyn, Yuichiro Nakamura, 2000 |
食堂に下りてくる人が少なくなってきた.みな船酔いに苦しんでいる.この船のイスは全て動かないように船にひもで固定されている.机のテーブルクロスも少しぬれていて.コップが滑らないように工夫されている.なんかコップの水がゆら〜っ,ゆら〜っ,とゆれているのを見るだけで気持ち悪い.
しばらくして,全ての手すりに「エチケット袋」が設置された.気持ち悪くなったらいつでもそれを引っつかむことができる.
次の日,
「何人かのつわものが,この 38度のゆれの中にシャワーを浴びることに成功した」
という武勇伝を聞いた.そこまでいくと,執念としかいいようがない.
Penguin Island South Shetland 諸島に上陸. その名の通りまさにペンギンの島 |
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2000/12/31 Sun. クルーズ4日目
朝目覚めると,穏やかな天気になっていた.波はおさまり,あのいまいましいゆれはなくなっていた.今日はついに,南極の北にあるペンギン島に上陸する予定だ.外のデッキにでると,温度計は 摂氏0度をさしていた.まずまずの気温だ.
海には Wondering Albatross の集団が群れをなして飛んでいる.水面をはねる大きさ 50cm ぐらいの一団が.カメラのズームを最大にしてのぞいてみる.
ペンギンがはねてる!
よくイルカが水面をはねている風景があるが,ペンギンも水面を跳ねながらすごいスピードで船の横を並走している.
まず,氷山がぽつぽつと見えてきた.しばらくして,氷山をみているひとから歓声が上がる.
氷山の上にペンギンの集団がいる.
なんであんな氷山のヘリの斜めのとこにいるのかわからないが,皆ねっころがったり,考え込んだり(?) してのんびり過ごしている.だんだんペンギン島に近づいている気分でいっぱいになってきた.
Chinstrap Penguin Penguin Island, South Shetland Islands, Yuichiro Nakamura, 2000 |
22:00 になって121m の船から 5m のZodiac というゴムボートに乗り換える.Zodiac は水面におかれていて,Gangway という階段を船の横につけてそこから直接乗り込む.波で船が揺れているので,Zodiac が1〜2m も上下する.タイミングを合わせて乗り込む.藤田さんと,「海に落ちたらせめて写真とってね」と約束する.Zodiac の縁は空気の入った直径70cmぐらいの丸いチューブになっていて,イスもかねている.外につるっといったらそのまま南極の海だ.
Zodiac は走り出すと前が持ち上がる.つるつるのゴムに乗っているだけなので,だんだんみんな後ろの方に滑ってくる.しまった.一番後ろに乗ってしまった.必死で耐える.
巨大なおばさんが容赦なくのしかかってくる.
周りの景色を楽しむ余裕はない.海だけは勘弁してくれ,と祈りながら着岸まで耐えた.
ペンギン島は周りが岩場になっていて,少し海に足を入れながら上陸.いきなりたくさんのペンギンがわれわれを迎える.ペンギンたちはちょこちょこと歩き回る.15feet/5m ルールがあって,それ以上人間からペンギンに近づいてはいけない. ただし,
ペンギンのほうから近づいてくるのはよい.
しばらくじっと座っていると,ペンギンの方からひょこひょこ近づいてくる.じ〜っとこちらをみて,去っていった.そのままそこに座り込んで,寝てしまうペンギンもいた.彼らは好奇心旺盛だ.Adelie Penguin, Chinstrap Penguin, Gentoo Penguinなど,いくつかの種類がいた.
New Year's Eve. Party, Kapitan Dranitsyn, Yuichiro Nakamura, 2000 |
23:30 から New Year's Eve Party がヘリポートで始まった.音楽ががんがんかかり,ビールや飲み物がが振る舞われ,思い思いに踊っている.楽しいのだが,どうもこういう雰囲気は似合わないかな?
ついに 21世紀へのカウントダウンをし,おきまりのチークキスをしてみなで新年を祝った.
2001's Cake, Yuichiro Nakamura, 2001 |
そして,デザート担当シェフの ウルフィー Wolfgang 特製の2001年ケーキ登場.上の写真の右側がウルフィーだ.彼は終始のりのりで,あのケーキをひっくりがえしやしないかとひやひやしながら見守った.彼の作るデザートは, Wolfgang という怖そうな名前とはうらはらに,とてもおいしい.毎日昼,アフタヌーンティ,夕と 3回,見た目にも美しくて結構このクルーズのなかでポイントが高かった.
Elevator, Kapitan Dranitsyn, Yuichiro Nakamura, 2001 |
8階建てで,上下に頻繁に移動する構造になっているので,エレベーターが一応ある.このエレベーターは,
手動でドアを開け閉めする.
ドアを閉めると動き出す.どうもちゃんと閉めなくても動き出していた気がする怖いシロモノだ.あのドレーク海峡 Drake Passage の間は揺れている間は使用禁止になっていた.
このパーティの間も,船は南極に向けてひた走っていた.
Brown Bluff - Antarctic Peninsula - 21世紀の元旦,南極大陸に上陸.
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2001/01/01 Mon. クルーズ4日目
朝起きるのがつらい.昨日遅かった上,今日朝一に南極大陸初上陸をやるため,朝が早い.目覚ましのベルが鳴ってもまだうとうとやっていると,
なんか船がバックしている.
まだあまり目が覚めていないので何となく「変だな〜」と考えて,だんだん目が覚めてくると,どうも窓の外が一面の氷で真っ白だ.
船が氷の真ん中を割り進んでいる!
船の横を見下ろす.氷を見事に割り進んでいる. Packed Ice, Weddell Sea, Yuichiro Nakamura, 2001 |
ついに乗客にバカにされつづけた Ice Breaker がその実力を発揮し始めた.
Ice Breaker は底が平らになっているので,船がよけいに揺れるのだ.しかし,今は厚さ 1m はあろうという氷を割り進んでいる.1回で割れないと,いったんバックして氷の上に乗り上げ,船の重みで強引に割り進む.数km に及ぶ氷を難なく割り進み,また開氷面にでた.
Brown Bluff に上陸 Brown Bluff, Antarctic Peninsula, Yuichiro Nakamura, 2001 |
11:00 今日は海はかなり穏やかで,Zodiac になんなく乗り換えられた.早くから Zodiac 待ちの列に並び,1番の船に乗り込む.ついに21世紀初元旦,南極上陸を果たした.
陸は白く雪と氷に囲まれている.その白い大陸に茶色い山が海からすぐにそびえている.それが Brown Bluff だ.大陸から分離した氷が青い氷山となって海に浮かぶ.
Adelie Penguin Brown Bluff, Antarctic Peninsula, Yuichiro Nakamura, 2001 |
ペンギン,ペンギン,ペンギン!
ここもペンギンはたくさんいる.一番多いのはアデリーペンギンで,見渡す限りペンギン,というルッカリー(巣) がいくつもある.ペンギンには 15feet/5m 以上人間から近づいてはいけないルールになっているが,どちらを向いてもペンギンなので,
ペンギンに囲まれ,たちまち身動きがとれなくなる.
彼らがどいてくれるまで待つしかないが,彼らは気まぐれにそのままその場で寝てしまったり,のんびりしている.
ペンギンが通る Brown Bluff, Antarctic Peninsula, Yuichiro Nakamura, 2001 |
海岸に沿って人間が歩くが,そこはペンギンの通り道でもある.雪の部分に人間が入り込むと足跡ができるが,それがペンギンにとっては迷惑な話.穴にはまって転んでしまう.そーっと足を出したりして,慎重にがんばって歩いていた.かわいい.
船はさらに奥へと進み, Paulet Island を目指す.しかし,その先に難関が待ちかまえていた.
次は > 南極で温泉!
南極へ向かう | 魔の海峡と 初上陸 |
南極で温泉! | 南の果ての 郵便局と夕日 |
南極の行き方 |